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zoom RSS  石牟礼道子さんの思い出

<<   作成日時 : 2018/02/14 17:58  

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今月10日未明、水俣病患者さんの苦しみを描いた「苦海浄土」で知られる作家の石牟礼道子さんが亡くなりました。90歳でした。詩人でもある彼女の書く文章はぬめるような感じがあって、しかも鋭く、人を惹きつける魅力を湛えています。出る本は次々に読んでいったものです。

1971年春、就職してまもない私は連休を利用して熊本へ旅立ちました。目的は国鉄水俣駅ちかくのチッソ工場前にある、テントです。当時、全国に吹き荒れた学園闘争はようやく下火にさしかかっていましたが、わたしの勤務先の国立大学では、時折対立する派の衝突で流血騒ぎが起きていました。

わたしの高校生時代から続いていた学生運動には、彼らが同世代ということもあり、心情的なシンパシーを抱いていました。過激な学生運動にはついていけなくても、何かわたしにも出来ることはないのだろうか。そんな切羽詰った気持をゆさぶったのが、当時大きな社会問題となっていた水俣病でした。

テレビでは連日のように「水俣病」をめぐるニュースが流れ、公害反対集会では「怨」の字を染め抜いた幟旗が林立して、異様な雰囲気に包まれていました。1969年(昭和44)に出版された石牟礼道子さんの『苦海浄土』の衝撃的な内容が、いやがうえにも運動をかき立てていたように思います。

 うち達は猫といっしょじゃばってん、死んだ死なんは問題じゃなか。
 大勢で見物に来て、親兄弟にも見せとうなか恥かしか有様ば立って
 みろ、座ってみろ、歩いてみろちゅうて、かあっとなっとるのを、
 写真に撮って、奇病になってどんな御気持ですか、ちよそ行き言葉
 で云われてピカピカ光るマイクさしつけられて・・・
              (石牟礼道子著『苦界浄土』より)


方言丸出しに綴られる言葉の数々は、読み終えたわたしに何としても水俣へ行って、自分の目で確かめずにはいられない、そんな気持を起こさせたのです。ある日、当時の国鉄久留米駅から列車に乗り、鹿児島本線を南下して水俣で下車。駅前からまっすぐ続く道の先にはチッソの工場が見え、雨の中をを歩いていくと工場正門横にテント小屋がありました。ここで患者さんや支援者などが、座り込みを続けていることを知っていたのです。

テントに着くと中は思ったより広くて数人がいましたが、出入り自由らしくわたしに気を使う人はありません。1時間ほどして石牟礼道子さんが顔を出され、その後、テントにいた胎児性水俣病患者の少年に、チッソ工場の排水口や湾ぞいの集落などを案内してもらいました。言葉も歩き方も不自由な少年でしたが、臆することなく自分の不安や希望などを熱心に話してくれたのでした。

『苦海浄土』は出版されるや、折からの公害反対闘争のシンボル的な本となりました。わたしは福岡市の水俣病告発集会で2度、石牟礼さんの話を聴きました。集会では刺激的な発言もありましたが、それは政治的というより、近代産業の狂気の所業に対する「呪術的な声」という性格のものでした。これは次のような文章でも明らかです。

 僻村といえども、われわれの風土や、そこに生きる生命の根源に
 対して加えられた、そしてなお加えられつつある近代産業の所
 業は、どのような人格としてとらえられねばならないか。(中略)
 私の故郷にいまだ立ち迷っている死霊や生霊の言葉を階級の
 原語と心得ている私は、私のアニミズムとプレアニミズムを調
 合して、近代への呪術師とならねばならぬ。(『苦海浄土』より)


石牟礼さんは2002年に水俣病を材にした新作能「不知火」を完成させ、水俣でも奉納公演が行なわれました。新たな境地を開いた意欲的な試みだとわたしは思いましたが、当時古くから石牟礼さんを知る人から、まだ法的救済も解決しておらず苦しんでいる患者さんもいるのにと、反発の声を聞きました。『苦海浄土』の世界のいまだ持つ生々しさと厳しさを、改めて感じさせられた出来事でした。

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