ハンサム・ウーマン

先日、2012年製作のドイツ映画「東ベルリンから来た女」を観ました。劇場は鹿児島市内のミニシアター「ガーデンズシネマ」。わたしはここのボランティアスタッフをしています。週2回朝9時過ぎから12時までを担当。清掃・開店準備のあと、10時からはチケット売りやもぎり、パンフレット等の物品販売、雑用全般をします。

ボランティアスタッフですから無給ですが、その代わりに上映作品は無料で鑑賞できます。とはいえ1カ月に10本近く上映されている作品を全部観るのは至難の業。いくら映画好きであっても、現実にはひと月のうち2本が関の山です。他の映画館にも行きますから、時間が足りません。

ミニシアターは、以前は独立系とか単館系と呼ばれていました。現在は複数のスクリーンを持つシネコン(シネマコンプレックス)が主流で、主にハリウッド映画や話題作を上映しています。ミニシアターはシネコンがやらない日本・アジア・ヨーロッパ・南アメリカ等の名作を上映しますが、採算的には厳しいのが現実です。

良質で地味。それがミニシアターのキーワードかもしれません。「東ベルリンから来た女」は、まさしくそんな1本でした。主人公の女医の名前 BARBARA(バルバラ)が原題ですが、邦題もなかなかいいと思います。1980年、ドイツがまだ東西に分断されていた冷戦時代。東ドイツの小さな町の病院が舞台です。

当時、東ドイツの首都ベルリンも、また東西に分断されていました。その東ベルリンの大病院に勤務していたバルバラは、西側への出国を希望したため東ドイツの海辺の小さな町の病院に左遷されます。そこには質素な生活をしながら働く医師たちがいましたが、バルバラは彼らと打ち解けようとはせず、孤立しても平然としています。

バルバラは治療に手腕を発揮するものの、同僚たちにニコリともしないし、やたらとタバコを吸う姿に違和感を覚えました。愛想もなく暗い顔してヘビースモーカーなんて、医者の不養生じゃないのと。しかしベルリンの壁崩壊の9年前の東ドイツの状況、特に当局にマークされた人物に対する監視の実態が徐々に明らかになっていきます。国家権力が恐怖に形を変えて、個人を襲うのです。

バルバラは東ドイツの秘密警察から常時監視されていて、尾行されたり、不意打ちで何度も家宅捜索を受けます。西側につながるような証拠でも出れば、即逮捕されるのでしょう。捜索は室内だけでなく、女警官が別室でバルバラを裸にして、結った髪の中まで調べる念の入れようです。バルバラは周囲の人を信用せず、いつもびくついていますが、密告を恐れているのでしょう。

病院には貧弱な施設や器具しかなくても、工夫して研究を続ける同僚医師のアンドレがいました。誠実な彼もまた逆境に置かれていましたが、バルバラが左遷されてきたとき、「我々は労働者や農民のお蔭で医者になることができた」と語りかけます。ここが唯一、日本との違いを感じ、感心させられた部分でした。

バルバラには西側に住む恋人がいました。ひそかに連絡を取り合い、逢引きします。恋人といるときのバルバラは、笑顔の素敵な普通の女性に変身します。恋人はバルバラを東から脱出させるため、秘策を練ります。準備万端整え、その時を待つバルバラ・・・・・。

西側に住む恋人を思い、西側に憧れるバルバラ。しかしバルバラの生活の基盤は東側にあり、バルバラを必要とする患者たちがいました。そんな狭間で心は揺れますが、安易に女を振りかざすことをせず、監視付きの生活の中でもよりよく生きようと、バルバラは1つ1つ自分の意志で決めた道を進みます。その強く潔い生き方は、まさしくハンサム・ウーマンといえましょう。自由と平和を当然のように享受しているわが身に、ガツンと一発パンチを食らわされたような映画でした。

 ♪ 管理者ウェブサイト 「杉山武子の文学夢街道」 

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この記事へのコメント

長年のファン
2013年05月29日 10:10
こんにちは、毎週メルマガの配信を楽しみにしております。毎回、その文章力、視点、構成力、主張に、圧倒され、感嘆し、納得等々、いたしております。
今回感想というか、ちょっとした苦情を申し上げます。
それは、私も映画の大ファンでして、今回の「東ベルリン~」の映画についてなのですが、最後の結末だけはお教えいただきたくなかったと言うことです。たいへん勝手な言い分なのですが、もしからしたら、その映画を見る機会があるやも知れません。が、結末を知ってしまったということで、興味が半減されてしまうからです。
これからも、映画のみならず、様々な視点、風景、本等々について、楽しみに拝読させていただきます。
2013年05月29日 15:22
長年のファンさま。いつもご愛読、感謝いたします。またコメントをいただき、ありがとうございました。
おっしゃる通りですよね。うっかりしていました。ネタバレになって、申し訳ありません。以後気を付けます。遅ればせながら最後のほうを急いで手直ししました。