今昔物語の食の教え

今年は、というか今年も食料品をめぐって、種々の偽装や改ざんなどがあとからあとから明るみになった。米の一粒も、野菜の一株・一本も生産しないので、食べ物全部を買って調達している私など、都市生活者の危うい一面を嫌というほど知らされた一年でもあった。

しかしそうはいうものの、人間、毎日何かを食べないことには命がもたない。米や野菜や果物は、なるべく住んでいる場所から近場で生産されたものを手にいれたいし、魚介類や肉類や加工品は、食品表示ラベルをためつすがめつ見ながら、安全か(偽装ではないか)、買うか(食べるか)どうかは自分で判断しないといけないのは、何もいま始まったことではなさそうだ。

以前、『今昔物語』の中から面白い話を紹介したことがあったが、実は今昔物語には食べ物の話がたくさんでてくる。たとえば芥川龍之介の短編小説の「鼻」や「芋粥」の素材となった「鼻を持ち上げて朝粥を食う話」「芋粥を食って飽きる話」は有名だ。ほかにも密造酒を作る話や、山で見つけた平茸を毒ではないかと心配しながら、空腹に負けて食べる話、食べたら舞を舞い続ける舞茸の話など、いろいろある。

約900年前の説話の中に、現代の食品偽装問題にも通じる話がある。古代であれ現代であれ、生きるというのは食べることでもあるのは、基本的には同じこと。人間の考えること・することにあまり進歩はないんだと、『今昔物語』を読んで考えさせられる。その説話集の最後となる巻31には、次のような食にまつわる話がある。

「太刀帯(たちはき)の陣で魚を売る女の話」
太刀帯(皇太子の護衛をする武官)たちの詰め所に、いつも魚を売りに来る女がいた。太刀帯たちが買って食べると、干した魚の切り身のようで味も良いので、たくさん買っては弁当のおかずにしていた。夏のある日、太刀帯たちが鷹狩りに行くと、魚売りの女の姿を見かけた。こんな野原で何をしているんだろうと、女に近づくと、大きなザルと苔(むち)を持っていた。

太刀帯たちが近づくと女はうろたえ逃げ腰になるので、怪しんだ太刀帯の従者がザルをひったくって中を見ると、蛇を四寸(約12cm)ほどに刻んだのがいっぱい入っていた。女は震えているばかりで、何も言わない。そこで一同ははたと気づく。女は苔で草むらをたたいて蛇を追い、出てきた蛇を殺して刻み、それを家で塩をつけて干したのを、魚と称して売っていたのだった。

それをうまいと言っては食べていた太刀帯たちは、蛇は毒だと言われているのに特に当たることはなかったらしい。とはいえ、切り身の魚として売っていても全体の形が分からないものは、どんなに安くてもむやみと買い込んで食べてはならないという話、と結ばれている。(巻31第31話より)
う~ん、これなど元祖食品偽装そのまんまだ。もう1つ。

「怪しい振舞いをした物売女の話」
京に住む人が知人を訪ねた。その門前に酔っぱらった物売り女が、売り物を入れた桶の横に寝そべっていた。その人が用事を済ませて再び門前に出ると、物売り女が目を覚ましたとたん、桶の中に反吐を吐き散らした。桶には売り物の鮎鮨(あゆずし)が入っていたが、しまったと、あわてた物売り女は桶の中身を手でかき混ぜてしまった。

それを目撃した京の人は、あまりのきたなさに気分が悪くなり、馬に飛び乗り逃げるように去った。その人はそれ以来、鮎鮨を食べようとせず、物売り女の売っているものも食べず、人が鮎鮨を食べているのを見ると止めたり逃げ出したりしたそうだ。町中で売っているものはきたないものばかりである。だから少しでも余裕のある人は、目の前で確かに調理させて食べるべきだ、と結ばれている。(巻31第32話より)

これなど、あまりに生々しくて尾籠(びろう)な話なので、書こうかどうしようかと迷ったが、消費期限の過ぎた牛乳や生菓子などを再販売していた会社、カビや農薬で汚染された事故米を平然と食用として転売していた会社、客の残りものを使い回ししていた料亭など、現代にも今昔物語そっくりのケースが相次いで発覚しているので、あえて書いてしまった。しかしどちらも女というのが妙に引っかかる。

今昔物語には、ただ話を面白おかしく伝えるだけではなく、話の最後に教訓めいたことが付け加えられている。古代の人々の口から口へ語り継がれてきた説話から、人々は生活の知恵を学んでいたのだろう。世の中は進歩しても、売るためには手段を選ばないという人間のさもしい根性は、今も昔もさほど変わっていないといえそうだ。

 ※参考 前回の『今昔物語』に関するエッセイはこちらです。
  http://bronte.at.webry.info/200607/article_5.html

 ♪管理者ウェブサイト「杉山武子の文学夢街道」 

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この記事へのコメント

2008年12月10日 23:19
続けてのコメントになりますが、こちらもためになります。今昔物語を引き出して来る所が。こうして自分の知らないことが楽しく考えられる機会を作ってくださってありがとうございます。
女性が食べ物の物語に登場するのは、家事が女性のする事で、食事を作る分男性よりシビア、と言う事でしょうか。この話の感じからは、女性を低等に扱っている気もするのですが。それを逆手に「このような現実を知っているか?」と知らしめているようにも受け取れますね。
又色々今昔物語教えてください。では。
2008年12月11日 23:12
satoさま、コメントありがとうございました。
私は中世時代が好きです。今昔物語は古代から中世に入る頃の説話集ですが、1つ1つの話が短くて読み切りですし、陰陽師や霊や動物や鬼が同じ舞台で活躍しますから面白いです。現代語訳も出ていますから、ぜひお読みになってください。私もまた楽しい話をご紹介します。