一樹の蔭、一河の流れ

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<<   作成日時 : 2017/05/11 13:56   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 3

もうすぐ蛍の舞う季節になります。蛍の季語は「夏」で、俳句の世界では「蛍」に関するたくさんの名句があります。俳句の先人として有名なのは松尾芭蕉や高浜虚子ですが、近年では季語や五・七・五にとらわれない自由律俳句で登場した種田山頭火や尾崎放哉(ほうさい)などが知られています。

俳句について詳しくはありませんが、自分で作るとすれば短歌と俳句のどちら、と問われれば、わたしは俳句を選びます。川柳も好きです。あのビシッと凝縮された潔さ、十七文字という短さに惹かれるのです。

妙なたとえかもしれませんが、ゆったりした趣のある短歌は囲碁に、激しさの際立つ点では俳句は将棋のようだと考えたりします。これはもちろん私個人の印象にすぎません。また俳句は長い間、男性が作っていましたが、近年では杉田久女、三橋鷹女、橋本多佳子など女性たちも登場しました。

先に上げた女性たちの句には、激しい情念の表出したものが少なくありません。本題の「蛍」にちなんだ句では、橋本多佳子の作がその代表かもしれません。

 蛍籠(ほたるかご)昏(くら)ければ揺り炎(も)えたたす

 【出典:第3句集「紅絲」(1951年)】

これなど女の情念が感じられる句と言われています。蛍を入れた蛍籠なのに、だんだん光が失せて暗くなっている。もっと光れ、明るさが欲しいのだと籠ごと激しく揺り動かす作者の姿が見えるようです。その行為の中に、何かに苛立ち鬱屈しているかのような、激しい心情が伝わってきます。

次は男性ですが、前田普羅(ふら)の句も、また不気味な激しさを秘めています。

 人殺ろす吾かも知らず飛ぶ螢 

 【出典:「定本普羅句集」(1972年)】
 
これなどさらに、殺すか・殺されるか分からないという、激しい男の情念ともいうべき心の暗部が見て取れる句でしょう。蛍は光を放って舞う、はかない存在ですが、それは暗闇を背景にしているから際立つ光なのです。この句は作者29歳の1913年頃の作と言われ、日本が軍国主義の道をまっしぐらに進んでいた時期でもあります。

寺山修司は短歌・戯曲・俳句・詩など多彩な分野で活躍した、名実ともにマルチタレントと呼ぶべき才能豊かな人でした。彼の俳句を好きな方も多いのではないでしょうか。彼の随筆に「蛍火抄」という短文があります。最後にそれを紹介します。

彼には、少年時代のある夏の日につかまえた一匹の蛍について、忘れることのできない思い出がありました。学校の裏の草むらの中でつかまえたその蛍を、母に見せたくて急いで帰り、2階の母の寝室まであがっていきます。するとそこから男と女のうめき声が縄のようにねじれ合う、情事の声がしたのです。

「またきているのだな」と修司少年は思います。父に早く死なれた母子の暮しの中に、週末ごとに訪ねてくる中年の「おじさん」がいたのです。母に見せるのを諦め、少年は自分の部屋の机の引き出しに蛍を閉じ込めます。真暗な引き出しの中で光る蛍を想像して、少年は悲しい空想にふけります。

この随筆の最後の部分は、こうです。

 その夜、火事があって私の家は全焼した。
 だから、私は今でも、
 「あの火事は机の引出に閉じこめておいた蛍の火が原因なのだ」
 と思っているのである。


 
  ※引用は 『日本の名随筆 73「火」』古井由吉編
        1988年11月25日発行 作品社刊


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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
杉山武子 様
shibaです。お久しぶりです。すみませんが、
阿修羅の如く 一丸章 夏の讃歌 お読み願います。
kndo4832 
URL
2017/05/12 14:09
shibaさま。こんにちは。
ご紹介の「阿修羅の如く 一丸章 夏の賛歌」読ませていただきました。西日本新聞ですから、福岡在住当時に読んだやもしれませんが、40年前の文章にもかかわらず、改めて、現代でも全然古びていないその内容に驚きました。
現代詩に対する考え方等、一丸章さんの考えがよく伝わってきます。また「人間の幸せを脅かす政治優先、軍事優先の経済大国の現実に宣戦布告し、文化優先の『美と信仰』に裏づけされた『精神の王国』の樹立を図りたいと、冷静に考えている。」という部分など、青年時代に戦争に遭遇し、辛酸をなめた世代の人が語れる、現代人への遺言ともいうべき内容ですね。
有難うございました。
武子
2017/05/12 16:36
お言葉、ありがとうございます。
kndo4832です。
URL
2017/05/21 22:50

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