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zoom RSS 見えない世界

<<   作成日時 : 2016/07/06 12:06   >>

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たくさんの物に囲まれ、目に見える世界に暮らしているわたしたちは、それが全てとは思わないにしても、かなりの部分満足して生活していると思う。また例えば目の見える人は、見えない人より優位に立っていると思い込んでいるかもしれない。ところが最近、わたしは見えない世界のことがどうも気になってきた。

わたしの勤め人人生30年のうち、20年間を某国立大学ですごした。辞める前の数年間は理学部数学教室に勤めていたが、そこに1年に1度、フランス人の教授が集中講義にみえていた。滞在は1週間程度で、専門は幾何学の、しかも盲目の教授だった。休憩時間にはこちらの理解力などお構いなく、英語で話しかけられる。そのとき空間の数学というものを、大学院生などを介して間接的に簡単に教わった。

ゼロ次元の世界は、針の先のような点の世界。全ての点には隣り合う点が存在しているという。離れた点と点を結んだ直線が一次元の世界。それをX軸として、もう一つの直線Y軸と交わってできる板のような平面が二次元の世界。この平面と別の平面が交差してできる空間が、いわゆる立体で、前後・左右・上下のある三次元の世界ということになる。

わたしたちの生きている物質世界は、この三次元の空間ということになるが、空間内の物は三次元空間座標を定義することによって、正確な位置を決定することができる……等々、説明されたような気がするが、それ以上はうろ覚えでこの説明が正確かどうかも、あまり自信がない。

問題はその次の四次元の話。三次元空間に、時間軸を加えたものが四次元の世界だそうだ。三次元空間のエネルギーや物質は、全てが時間軸の方向に動いているらしいけれど、人間には四次元を認識するだけの感覚器官がないという。その四次元の世界は時間の連続体であって、しかもその空間は曲がっているそうだ。

教授はそういう研究をされていて、例えば幾何学的な形のものを頭の中で、どんな位置からも自由に見ることができるらしかった。ひっくり返したり、多面体を平面的に広げてみたり、自由自在にどのようにでも認識できるのだと。盲目であることが有利であるという話だ。なまじ目が見えるために見えるものから自由になれないから、逆に見えない人より想像力に乏しい不自由な世界にいるのかもしれない。盲目の教授はわたしにそんなことを考えさせてくれた。

ミヒャエル・エンデの小説に『モモ』がある。この本には「時間どろぼうと盗まれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語」という長い副題がついている。毎日忙しくせかされ過ぎて、自分の時間を取り戻せない現代人を描いているこの小説は、本当の豊かさとは目に見えるものではなく、自分の内面にある無限の時間を大切にすることの大切さを教えている。

四次元の世界を認識できない人間は、三次元の世界で感じることができ、見えるもの、つまり科学の発達で得た文明社会を謳歌してきた。逆にいえば科学に頼りすぎて、人間にとって必要な目に見えない世界――霊や魂や心などの精神世界的なもの―を、非科学的、非現実的として排除しすぎてきたのかもしれない。何かが多すぎて何かが足りないのだろう。

誰しも見える物に、手に入る物に執着したい。いい家に住み、いい物を身につけ、美味しいものを食べたい。それらの欲求が大量生産へとつながり、経済を回し、社会全体や個人の生活を豊かにしてきたのだから。それはいわば人間の向上心の結果であり、いいことには違いない。一方で、不平等や不公平が生じてしまう現実もまた否めないけれど。

健康や幸福がお金では買えるなら誰しもそうしたい。不老長寿の薬があれば大富豪が一番先に駆けつけるかもしれない。けれど人間はいつか死ぬから、1度きりの人生を楽しみ、よりよく生きたいと努力するのだろう。見えない世界とは、実は自分の人生のことなのかもしれないと最近思うようになった。老人の部類に仕分けされたこの先、わたしなりの世界を心豊かに過ごせるよう心掛け、もっと時間を大切にしたい。

  「本当に大切なものは目に見えない」
        サン=テグジュペリ『星の王子さま』より

  ♪ 管理者ウェブサイト 「杉山武子の文学夢街道」 

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