一樹の蔭、一河の流れ

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<<   作成日時 : 2013/07/10 09:11   >>

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わたしがまだ小学校に上がる前、つまり昭和20年代の終りのころ、夜空にはとてつもなく大きな河があった。天空に白っぽく輝いているのは水ではなく、何千何億か数知れない星々であった。その大河は天の川とも呼ばれているが、半世紀以上前の田舎の夜空の光景は、いまも脳裏を離れることはない。

最初に夜空を熱心に見たのは、4、5歳のころだった。ある夏の夜、もう眠っていたわたしを母が揺り起こして、無理やりおんぶして外に連れ出した。寝ぼけまなこのわたしに「ほら上を見てんね、きれいかねえ」と何度も呼びかけ、天の川を見せようとした。夜の暗がりの怖さを忘れるほど、それは文字通り目の覚めるような美しさだった。

それから何度夜空を眺めたことだろう。白砂のように無数の星が帯状に連なり、しかもくねったり細くなったりしながら、青味がかった黒い天空に横たわっている。神秘という言葉など知らない幼児のときから大人になるまで、何度見ても飽きることは無かった。恐れを感じるほど大きいそれに、ただ見とれていた。

数多くある中で際立って煌めく星の形が、四季を通して変化する。それが面白くて星に興味を持ったのは、小学生になってからだった。最初に覚えたのはおおぐま座の北斗七星と、こぐま座を見つけて探し出す北極星だった。なぜなら北極星は1年中見ることができたから、子どもでも覚えやすかったのである。

なぜ1年中見えるのかは、わたしが北半球の比較的高緯度に住んでいるからだと知ったのは、ずいぶん後のことだった。やがて学校の教材で星座版をもらった。円盤状の2枚の厚紙が真ん中にある鋲で重ねられ、円周部には日付や時刻が印刷されいる。上の盤の一部が楕円形に切り抜かれていて、そこから下の盤に印刷された星の位置や星座の名前が見えるようになっていた。

夜になるとそれを手に持って、円盤を回して日付や方角を正しく合わせ、本物の夜空と見比べる。春夏秋冬、星空は表情を変えてわたしの目を楽しませてくれた。特に好きだったのは秋の夜、Wの形をして見えるカシオペア座。冬の夜の南の空に見える砂時計のような形のオリオン座。そして夏の天の川にはばたく、大きな十字形をしたはくちょう座。

白い星、赤い星、金色の星。日没後の西の空にひときわ輝く金星は、一番星とか宵の明星と呼ばれている。また明け方、太陽に先がけて東の空に昇るのも金星で、この場合は明けの明星と呼ばれている。どちらも金星と地球の周期の関係で、いつもで見られるわけではないそうだ。昨年3月末の夕刻、ハンガリーのブダペストで見た月に寄り添う輝くあの星は、金星だったのだろうか?

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夏の夜でもう1つ思い出すのは、バンコである。わたしの育った福岡県南部では、どこの家にもバンコと呼ばれる一種の縁台があった。わが家のそれは高さは50センチほどで、広さは畳1枚よりもっと大きな長方形。冷房などない時代、風呂上りには庭に置いたバンコの上で、父は大の字になって涼んでいたし、その横でわたしたち姉妹は眠くなるまで遊んだものだ。

バンコはポルトガル語の banco が由来だそうで、広辞苑には縁台や腰掛の意味と書いてある。銀行を意味する bank は腰かけて順番を待つことから、バンコが語源なのだという。蚊取り線香をくゆらし、うちわを片手にバンコに仰向けになって星座を探したり、学校であったことを話したり、家族団らんの場だった。もうあんな時代は二度と来ないと思うにつけ、無性に懐かしい。

経済が発展し、どこもかしこも明るくなった。昨年、実家から見た夜空の星はめっきり減っていた。そればかりか流れ星も長いこと見ていない。それはわたしたちが原子の灯りと引き換えに、夜空の星明りを消し去ってしまったからだ。人里離れた高い場所にでも行かない限り、もうあの光り輝く星の大河を肉眼で見ることは出来ないだろう。天の川は、本当に伝説になってしまった。

 ♪ 管理者ウェブサイト 「杉山武子の文学夢街道」 

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